作曲家・Offshoreが初の劇伴担当となった今作「DeepOne」
今まで劇伴制作を発表していなかったOffshore氏を起用した経緯や、劇伴BGM制作にあたっての熱意などを
ディレクションを担当した制作総指揮の堀ノ内遊女氏を迎えて今回も対談形式で紐解いていこう。
(インタビュアー:P.i.P)
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@プロフィール
Offshore
複数社を経て、今年2018年3月よりフリーランスになる。
音楽活動、音楽制作の他にデザイン業務を行なっているマルチクリエイター。
「アイドルマスターシンデレラガールズ」や、あざらしそふと「アイカギ~アフターデイズ~」OPの編曲などを
手がけながらエンジニアとしても活動している。
【HP】 https://offshoremusic.tumblr.com/
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【P.i.P】 ・Offshore氏は今まで歌物中心での活動とお聞きしましたが
「DeepOne」で劇伴を引き受けた経緯をお聞かせください。 |
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一番最初に劇伴をはじめ「DeepOne」のED曲制作のお話を頂いた時点では
他の企業様の案件等もありメニューの大体3分の1ぐらいの量で引き受ける予定でした。
そんな中、たまたま「デスティニーチャイルド」で
BGMを担当されているseibinさん
(ESTiMATE)のBGM制作のボーカル録音エンジニアの
お仕事をさせて頂く機会がありそのBGM楽曲のラフ音源が尋常じゃなくクオリティが高かったんです。
そこで「あぁ、作家ってこうあるべきだよなぁ」と深く感銘をうけまして。
「ゲーム劇伴」という制作敷居の高さを甘くみていた訳ではありませんが、私には大きな衝撃でして
その収録をきっかけに「DeepOne」の制作資料とシナリオを再度しっかりと拝見した上で
「DeepOneにすべて捧げるので、3分の1と言わず劇伴をしっかりとした形で引き受けさせてほしい」と
申し出た経緯になります。
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「DeepOne」と言えば「新本格バトル」ということで
やはりここはバトル物の曲から聴かせてもらおうと依頼させてもらって。
それで最初にあがってきたのが、体験版でもお馴染みの「BGM20(奥義開放)」だったんですね。
それを聴いた瞬間、あまりのクオリティに全身の毛並みが逆立ってしまって(笑)
こいつは尋常じゃないクリエイターさんにお願いすることになった!と感動したのを
今でも鮮明に覚えています。 |
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ありがとうございます。
たしかに今までは、ネクストンさんでいえば「アイカギ~アフターデイズ~」の主題歌のような
POPでキラキラしたような楽曲が主な活動場でしたので本当にできるのか?という不安はありましたが
期待される以上プロとして応えたいなと。
それで考えに考えて「DeepOne」の世界に、それこそ深く深く潜り込んででき上がったのが
「DeepOne」のBGMの世界観になります。 |
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【P.i.P】 ・今回、お二人でタッグを組み劇伴を担当されてますが、お互いの印象はどうですか? |
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最初に会った印象は「デキるマネージャー!」みたいな人だなぁと思いましたね(笑)
制作に入る前に、綿密に納期確認とタスク表を提示しながらスケジュール打ち合わせをする姿を見て
放っておくといつまでも制作にのめり込んじゃう人が多いクリエイターさんの中にあって
珍しいタイプだなーって。
あ、もちろん良い意味でですよ!(笑) |
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堀ノ内さんの第一印象は、とにかく頭の回転が早い方ですね。
これは今でも変わってません(笑)
一方で作品に対しての熱意なんかも、他のクライアントさんでは正直見たことがないぐらい
凄い方だと感じたので、この人になら安心て楽曲を預けることができると思いました。 |
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【P.i.P】 ・今作は「ビジュアルノベルゲーム」というジャンルですが
劇伴制作にあたってどのようなオーダーがあったのでしょうか? |
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ざっくりと言いますと「アニメの劇伴のオーダー表」に近い印象でした。
普通、PCのアドベンチャーゲームというと
「こういう大体、こんな感じの楽曲だからよろしく!」という大まかなオーダーがくることが多いのですが
堀ノ内さんが制作した楽曲指定メニューはとにかく指定がクリエイティブな方向性に特化してまして
「◯◯のキャラが◯◯のような場所にいて、◯◯をするので、◯◯のような雰囲気にあう楽曲をください」
という世界観を重視した細かな指定だったんですね。
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【P.i.P】 ・なるほど、それがアニメ劇伴のような印象のオーダーだったわけですね。
そのオーダーにした理由はなんだったのでしょうか |
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アニメは意識してなかったんですが、とにかく「DeepOne」という独特の世界観を
いかに理解してもらえるかどこまで深く読み込んでもらえるか、という部分を要約して
指定書に落としこんだ結果、そうなっちゃったみたいです。
最初は、戸惑わせてしまったみたいですが、最終的には全シナリオを読み込んでもらえるほど
惚れてもらえたので中盤からは制作コアメンバー並みにツーカーでわかり合えてとても助かりました(笑) |
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【P.i.P】 ・堀ノ内さんは、ゲーム制作においていつもこのような細かい指定表で
他の作家さんにもお願いしてるのですか? |
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いえいえまったく。
といいますか「DeepOne」以外でそこまでBGMにこだわれるような機会も予算もぶっちゃけなかったので(笑)
Offshoreさんが言うように、大まかな方向性とサンプル曲を渡して基本お任せでした。
ですが「DeepOne」は当初より、BGMにも尋常ないほどの心血を注ぐという方針でしたので
「んじゃあ一切妥協しないわ!」と目をキラキラさせながら、とことん最高のクオリティを求めて
何度何度もなんどーも、しつこく指定させてもらいました(笑) |
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【P.i.P】 ・「DeepOne」ならではの世界観を表現するのは、相当大変だったのではないでしょうか。
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ええ。堀ノ内さんがおっしゃったから言えることですが、本当に細かいんです(笑)
「羊水に包まれた子宮の中にいる世界観」という指定の曲があったのですが
正直今でもよくわかってません(笑)
けど、やり取りをしていく中で、堀ノ内さんは、こういう曲や雰囲気を「DeepOne」に求めているんだな
というのが次第にわかるようになっていって。
それを理解するのに、一ヶ月ほどは時間がかかった気がします。
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途中から指定方法が電話で直接口頭になりましたもんね(笑)
制作佳境時には受話器片手に1日3~4時間くらい直でやりとりしてたこともザラでしたか。 |
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そうですね(笑)
途中からメールでやり取りする時間も手間も惜しくなったというのもありますが
「ばぁー!っとしてほしい」とか「ここにドンっという感じで」とか擬音で伝えてもらった方が
結局、都合がいいなと。
で、僕が堀ノ内さんの指定を受けていく中で、一つの指標として見えてきたのが
「ユーザー様が喜んでもらえる劇伴曲+ゲームの空気感を大事にすること」でした。
これってユーザーには当たり前のように思えるかもしれませんが、劇伴は基本的に
「売れる事」や「ユーザー様の視線を気にする」といった点を重視するということは
私の経験上のお話ではありますが、あまりありませんでした。
あくまで、クライアント様のオーダーを忠実にこなし
指定された雰囲気を崩さないことが求められる現場が圧倒的に多かったのです。
ですが「そんなことは大事としない。BGMで一つの世界観を創ってユーザーを魅了してほしい」という
堀ノ内さんの意思は、むしろ素晴らしいなと判断しまして。
一曲に対してユーザーを一気に惹きつけられることと、堀ノ内さんが描くゲームの空気感を劇伴で
再現することが最優先事項になりました。 |
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そうなんですか?
私はあまり小難しいことは考えず「DeepOne」制作の基本方針に従っただけだったんですが……。
BGMに限らずすべての要素の方向性をそろえて、かつ一切の妥協を許さないクオリティを追求する。
作り手がワクワクできないものは、きっとユーザーさんもワクワクしないだろうから
まずは我々が絶対満足するまで突き詰める。
その姿勢がOffshoreさんには、そのように伝わったということなんでしょうね。 |
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【P.i.P】 ・相変わらずの堀ノ内節全開ですね(笑)
生演奏を盛大に取り入れる作品はなかなか見かけなくなってしまいましたが
そこに価値を見出した理由はなんでしょうか? |
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これは持論ですが名作、特に血湧き肉躍る熱いバトル作品に上質なサウンドの存在が必要不可欠だと思ってます。
一般的な美少女ゲームのBGMクオリティではあきらかに目指すべきクオリティに達してなかったため
Offshoreさんに自然とお願いする流れになって生演奏の指揮をとってもらうことになりました。 |
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ちなみに音楽にここまでの時間や労力を割くことに社内から反対ってなかったんですか?
僕はメニュー表みたときに劇場版アニメを作るのかな? と錯覚したレベルでしたよ(笑)
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なかったですねー。
だって企画プレゼンで私がホテルの壇上でブチまけたことが「タイプムーンを超えたい!」ですもん(笑)
色々ツッコミどころが多すぎてBGMの予算表なんて誰も注目してなかったんじゃないかな。 |
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え、マジですか!? そんな挑戦にいつのまにか巻き込まれてたとは……(笑)
しかし、こんな挑戦的な現場やクライアントは、今やなかなかないので
「DeepOne」に関われたことは本当に幸せでした。 |
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【P.i.P】 ・その目指せタイプムーン!の話を前回聞かせてもらった私ですが、何度聞いても驚きますね(笑)
音楽制作期間は大体どれくらいでしたか?
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作曲だけでいえば、大体二ヶ月半ぐらいだと思います。
そこからリテイクなんかがあったり、録音があったりと様々な工程があるので
正直なところどれくらいかかったと言われると、正確には答えられないですね。
ですが、通常のお仕事よりも遥かに長い時間が必要なお仕事であったことは間違いないとは思います。
一曲に6回ほどリテイクがかかった楽曲もありましたから(笑)
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しつこくてごめんなさい!(笑) |
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いいんです。しつこくないとあのクオリティはでませんから(笑) |
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【P.i.P】 ・今作はオーケストラ風でありながらなにか新しいジャンルを
作り出そうとしている楽曲が多いBGMという印象を受けました。
これはあらかじめオーダーがあってのことだったのでしょうか? |
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いいえ、僕自身の選択です。
匂いはオーケストラというより、個人的にはエレクトロニカに近しいものがあると思ってます。
まったくの新しいジャンルというほど挑戦的ではないですが、普通のフルオーケストラだと
「DeepOne」の独特な雰囲気に負けちゃうんですよ。
登場人物のセリフに噛み殺されてしまうんです。こんな経験は正直初めてでした。
ですので、必然的にこういった楽曲を産み出す必要があったということになりますね。
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オーダーとしては特に新しいジャンルを生んでくれ!みたいな強い要望はなかったですね。
ただ音の種類や数、広がりなんかを、ラフが届くたびに細かく指定を返していただけだと思います。
思うんですけど……なんか私、自然にムチャクチャなお願いしてました?
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無茶ではありませんが、堀ノ内さんを「怖えぇ……」と思ったのは
「BGM25(戦闘激化)」が録音で大化けした時ですね。
「堀ノ内さん!これヤバイのでき上がりましたよ!!さすがにこれはOKでしょう!」的なニュアンスで
完成してすぐにメールを送ったのですが、ものすごくクールに「ギターは元のがいいので戻してください」と
すぐにかかってきた電話で一言ばっさり切られた時は「あ、はい……。」としか返せなくて(笑)
しかも実際、そのほうがマッチしてたりもしてて……(笑)
その冷静な判断がなかったら雑な方向性に転がってた可能性も否定できないのでやはりディレクターというのは
作品のクオリティを指揮するのに、不可欠なポストなんだと再認識できた瞬間でした。
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あの時は本当に無理いってすみませんでした。
でも、クリエイターさんのその時の勢いや要望に押されて、考えをコロコロかえちゃう
制作総指揮ってぶっちゃけいらなくない?(笑)
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あ、はい……。 |
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【一同】 爆笑 |
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【P.i.P】 ・ここまでお話を聞いてきましたが「バトルもの」「ファンタジーもの」「日常もの」と作る際
音楽の作り分け・ジャンルや手法の使い分けはどのようにされたのでしょうか? |
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確かに「DeepOne」は、指定ジャンルの幅がとてつもなく広いので
一曲に対して気持ちを切り替えたり、意識を前に作った楽曲に引っ張られないように
少しだけ映画を見る時間を作ったり、PCゲームのBGMを切ってその雰囲気に似ている場面で
ストップしてみてジャンルを考えるという作業が、今思えば結構多かった気がします。
一瞬で切り替えられるうまい方法があれば教えて欲しいぐらいです(笑) |
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【P.i.P】 ・最後に「DeepOne」劇伴の聴きどころも伺わせてください。 |
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「DeepOne」で、いわゆる「重要シーン」での楽曲は
「ここでプレイをしているユーザーさんの胸が締め付たいからこの展開にした楽曲」とか
「かっこいい!!」と言わせたいがために作った楽曲など、とにかくシナリオやイラスト
演出に押し殺されない劇伴を目指しました。
もし「ここは胸が締め付けられそうな感じがする」という感想があったら僕の勝ちだなと思ってますので
ぜひ演出と音楽のマッチングを楽しんでいただければと思います!
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マッチングは私も推しだったんですけど、先に言われてしまったので(笑)
きめ細やかな変調というか、1曲内で様々な表情を見せる職人仕事にぜひ注目して欲しいですね。
こんな音まで使っているのか! と聴くたびに新たな発見と驚きがありますから。
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